等身大の女刑事ががんばる!『ON 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子』ー内藤了
久しぶりの投稿は、このシリーズ。
発売当時から追っていて、キャラ立ちしている登場人物と読みやすい文章にすっかりハマってしまった。
波留主演でドラマ化もされていましたが、あれは登場人物も全く別物。
もちろん面白いのですが、個人的にはやっぱり小説の方が好きなので、是非読んでみてほしい。
この「藤堂比奈子シリーズ」は2018年2月現在で7巻まで発売されていて、次巻クライマックス?らしい!やだ~。
物語は、八王子西署に配属された新人警察官、藤堂比奈子が次々と立ちはだかる猟奇事件を前にして、持ち前の前向きさと機転の速さで解決していくという痛快クライムサスペンス。
以下、もちろんネタバレしてますのでご注意。
あらすじ
程よい田舎であり平和そのものの八王子で、ある時「自分で自分をレイプし虐殺した」としか思えないような遺体が発見される。
被害者はかつて女の人をレイプし殺害した犯罪者で、その死にざまはかつて自分が行った犯行と同じような姿で、しかもそれを録画していた。
状況からして他殺として捜査は進められるが、遺体からは本人以外の指紋は出ず、現場にも手掛かりはない。検死の結果、遺体は自殺の可能性が高いと判断されるが、果たして自分の肛門を切り裂きビンを詰めてから自殺することなどあるのだろうか・・・?
新人警察官の藤堂比奈子は、お茶汲み内勤警官から卒業して初めて関わる事件として、この奇妙な殺人事件を担当する。
上司の「ガンさん」こと厚田巌夫刑事と共に聞き込みや現場検証など、驚異的な記憶力と持ち前の人当たりの良さで、真正面から事件に立ち向かっていく比奈子。
お守りの七味缶を手に奔走する中で、過去に「自分が犯した殺害方法で自殺」した受刑者の事件が起きていたことが発覚する。
頭を殴打して殺した受刑者は、頭を自分で打ち付けて死亡。
死ぬ前に「あいつがくる」と発狂し、泣きながら自分の頭を壁に打ち付けた。何度も、何度も。まるで見えない誰かに襲われているように。
事件につながりを感じるが、解決の糸口は掴めない。。。そんな状況の中で、比奈子は事件関係者のカウンセラーであった中島保医師とであう。
野比先生と呼ばれるそのカウンセラーは、過去に少年犯罪を犯した加害者の矯正と社会復帰を支援するメンタルクリニックに勤めており、何度か顔を合わせるうちに二人は心を通わせていく。
事件のさなか、通り魔に親友を殺された比奈子と、過去に重いトラウマを抱える野比先生。
野比先生から母親を殺して少年院送りになった少年の話を聞き、脳を人為的に操作することで幻覚を起こさせ自死させる可能性にたどりついた比奈子は独自で調査を始めるが、その先にあったのは思いもよらぬ悲劇だった。
みどころ
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新しいタイプのヒロイン
女刑事というと、男顔負けのバリキャリでパンツスーツで走り回る、竹内結子(ストロベリーナイト)とか真木よう子(SP)とかが出てくると思いますが、この主人公・藤堂比奈子ちゃんは、本当にフツーの女の子。
そもそも警察を目指したのだって、過去に家族を殺されてとかそういうのではなく、刑事ドラマ好きの母親に「警察官なんて格好いいんじゃない?」と勧められからというゆるふわっぷり。
特に運動が出来るわけではなく、熱いわけでも冷めてるわけでもない彼女ですが、一度見たことを忘れない、という驚異的な能力を持っています。
漢字が苦手でイラストをメモすることで、人の言ったことを一言一句違わず思い出すことができ、これが結構事件の糸口になったり、重宝されるわけなんです。
また、色んな人から刑事らしくないと言われる人当たりの良さで、特に女性相手の聞き込みやセンシティブな話題のときは居てくれると非常に和みます。
人の話を引き出し、現場に残されたわずかな違和感を拾う。そしてそれらを組み合わせることで事件の全貌を明らかにしていくのが比奈子たち厚田班の仕事です。
そして比奈子の最大の魅力は「どんな過酷な事件にあっても決して挫けず犯人を追いかける熱意」だと思います。
物語の中で、比奈子はこれでもかというほど様々な猟奇事件に出くわし、とうとう「猟奇犯罪者ホイホイ」という忌み名までもらってしまうのですが、どれだけ憔悴しようとも怒りを抱えようとも、横に逸れることはありません。必ず復活して、いつもの前向きで明るい、警察としての使命感に燃える彼女に立ち戻るのです。
被害者の死に際し、その無念な気持ちや遺族のやるせない気持ちを受け止めて泣きます。変に事件慣れして遺体を遺体としか見ないのではなく、その生前の人生に思いをはせて、絶対に犯人を捕まえてやると燃えるのです。
犯罪者に対しても、「人殺し」として切り捨てるのではなく、その生い立ちや考えも知った上で人間として接します。
優しくて素直な彼女だから、たくさんの人に愛されているのもよく分かる。
そんな主人公なのです。
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個性豊かな登場人物たち
ライトノベル並みにキャラ立ちした登場人物があれこれ話を動かしてくれるのも魅力の一つです。
まず、主人公の所属する通称:猟奇犯罪捜査班のメンバーですが、班長のガンさんは昔気質のたたき上げ警察官。見た目はごついしいかにも「警察官」な姿ですが、比奈子の突拍子のない話も怒らず耳を傾けてくれる理解ある班長です。後述の死神女史の元夫で、今でも尻に敷かれている感じ。
比奈子の先輩・東海林はお調子者の体育会系。こっそり自分の資料を比奈子のデスクに移したり、さんざん比奈子をいじり倒してくるウェイ系刑事ですが、警察官としての使命感は強く、作中では捜査一課へ栄転してなお比奈子たちをサポートしてくれる良い先輩です。彼と比奈子の掛け合いはとても面白い!
同じく比奈子の先輩の倉島はスタイル抜群のイケメンだけど、恋人は愛車の忍という筋金入りのバイクオタク。捜査にももちろん忍を乗り回してます。
清水は初期はいたかいないかくらいの存在でしたが、最近では「存在の薄さ」を売りに捜査するという設定が盛られ、片岡については足で稼ぐタイプの昔ながらの刑事さん。
どちらも初期はあまり目立たないキャラでしたが、話が進むにつれ個性が際立ってきました。
そして検視官の三木捜査官は、これまたいかにもという感じのオタクで、喋り方も「~ですかな。」とか言っちゃうタイプなんですけど、彼もいい味出すんですよね。検視官としてももちろんですが、オタク的スキルで情報を集め、事件解決に導いてくれることも多々あり。彼女の西園寺麗華(!)さんも、これでもかというくらいコッテコテで愛すべきキャラクター。
最後に法医学者の石上博士ー通称:死神女史が、被害者の遺体から様々なメッセージを汲み取り、事件に協力してくれます。ハスッパでタバコとチョコレートをこよなく愛し、解剖後に焼き肉に行くなど常識はずれでぶっ飛んだ人ですが、比奈子とは気が合うらしく、彼女の成長を見守ってくれてもいる。
彼女を主人公にしたスピンオフもあるみたいですが、私は未読です。
猟奇犯罪捜査班のメンバーは全員、被害者への哀悼と、それ以上に犯人への怒りを素直に感じ取り、事件をただの数字や仕事としてとらえる人はいません。
だからこそ読んでいる側も同じように犯人に怒り、共感することができるのだと思います。
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刑事と犯罪者の恋
ストーリーとしては毎回なにかしらの事件が起きるのですが、それと並行して主人公・藤堂比奈子と、犯罪を憎むあまり自分が犯罪者になってしまったカウンセラー・中島保(野比先生)との恋愛も描かれています。
野比先生は、人為的に脳に腫瘍を発生させることで犯罪者に自身が犯した殺人を追体験させ自死させるという実験を行っていました。そう、あらすじで書いた事件の真犯人なのです。
野比先生は大学生の頃、床に手足を打ち付けられ、生きたまま解剖された少女の遺体を発見したことがあり、それ以降、「幼少期に心に傷を負った犯罪者に幸せだったという偽りの記憶を植え付けることで犯罪から更生させる」という研究に没頭してきました。
腫瘍を発生させる、というのもその研究の一環ですが、いつまでたっても反省するどころかのうのうと生きながらえている殺人者を許すことができず、カウンセリングと偽って腫瘍を発生させる実験を行っていたのでした。
野比先生は自分の犯した罪の重さを自覚しており、比奈子はそんな愛する人を逮捕することになるのですが、野比先生の研究に興味を示した政府は秘密裏にとある研究センターへ隔離します。
野比先生はそこで研究を続けつつ、心理犯罪プロファイラーとして猟奇犯罪捜査班に協力することになるのです。
犯罪者を憎む心は同じでも、警察と犯罪者として永遠に交わることのない境界を引かれてしまった比奈子と野比先生。
それでもお互いを想う気持ちはとめられず・・・捜査の一環として監視されつつ話をすることが唯一の逢瀬となるのです。
たぶん、お互いがどうにかなることはこの先きっとないのでしょう。一生塀の中と外で隔たれながら、それでも会いに行くんじゃないかな。
最新刊では、野比先生の研究に目を付けた組織に狙われているという状況もあり、ますます二人の関係には目が離せません。
感想
角川ホラー大賞読者賞を受賞して発行された本作。
ホラーというよりはSF寄りの刑事ものですが、主人公のひたむきさとテンポの良さに引っ張られてすいすい読めてしまいます。
よくある刑事小説の組織内抗争とか武骨な刑事象とかにあまり魅力を感じない私なので、同じ年ごろの新人女性警官が主人公というとこがとても手に取りやすかった。
物語には無駄が無く、すいすい話が進んでいくので、謎解きとか犯人探しとかはできない(序盤で犯人分かるときとかある)けど、この先どうなるのー??と一気読み出来てしまいます。
プロローグは必ず遺体の発見から始まるんですけど、どの遺体も凄惨で文字で読むだけでも嫌な気分になる。腐敗して発生するガスとか、運悪くそれを見つけてしまった人たちの動揺と高揚とか。
猟奇犯罪者ホイホイの比奈子ちゃんはよく犯人と一対一で対峙するピンチに陥るんですが、その臨場感も手に汗握る!
作者は長野在住で、比奈子ちゃんも長野出身ということで、長野が舞台になることもあるし、八幡屋磯五郎の七味とか雲切目薬とかローカルネタもちらほら。
恐ろしい猟奇事件を描きながらも、随所に気の抜ける会話があったり、禁断の恋があったり、何より登場人物たちのおかげで話が重くなりすぎず、とても読みやすい!
空いた時間でもするする読めるので、ちょっとでも興味が湧いたらぜひ読んでみてください!