読書感想文を書き散らす。

小説・漫画の感想を書き留める。ネタバレあり。

山で生きていく。森と生きていく。『神去なあなあ日常』ー三浦しをん

 

 

木を育て、森を整え、山と暮らす。

都会育ちの少年が、山奥の村で逞しく成長していく物語。

 

大自然の燃えるような生命力と、そこで息づく人たちの何もないけど明るい日常を描いています。

 

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

 

 

 続編もあります。もちろん単品でも楽しめる。

神去なあなあ夜話 (徳間文庫)

神去なあなあ夜話 (徳間文庫)

 

 

 

映画化もされた名作なので、ご存知の方も多いかと思いますが。

度々手に取って読むくらい大好きな作品なので、ご紹介をば。

 

物語はとてもシンプル。

生粋の都会人である主人公が、田舎の山奥で林業を行う話を主軸に、慣れない田舎での生活や個性豊かな村の住人と交流、村に伝わる神話や謎の行事、そしてつれない女の子との恋。。。と神去村での一年を通して成長していく姿を描いています。

 

 

 

あらすじ※ネタバレあり

 平野勇気、林業を知る

横浜生まれ横浜育ち、悪そな奴はだいたい友達な主人公・平野勇気は、高校卒業を前にしても進路を決められず、両親と教師から強引に三重県の山奥・神去村で林業に従事するよう迫られ、しぶしぶ中村林業(株)に就職することとなる。

 

元々希望していた訳でもない上、今までの人生にかすりもしなかった「林業」に興味も湧かず、更に下宿先の主で職場の上司でもある飯田ヨキにさんざんしごかれて、勇気は度々神去村を脱走しようとするが失敗。

嫌々ながらも、初めての林業の世界へ飛び込んでいく。

中村林業での仕事は、東京ドーム約256個分もに及ぶ広大な山々を管理すること。木を刈り、木を植え、木を売ることだ。

そのためには、雑木を刈って土に栄養が回るようにならし、木がまっすぐ伸びるように枝を切り、重みで枝が折れないように雪を落とす。

木々の生い茂る山歩きや、命綱一本で数十メートルの木にぶら下がる作業、容赦なく荒れ狂う山の天気。

肉体的にも精神的にも楽ではない仕事だ。

 

初めは木登りもチェーンソーの操作も出来なかった勇気だが、毎日山に入るにつれて次第に『山師』としての経験を積んでいくうちに、仕事が楽しくなってくるのだ。

自分が手を掛けて育てた木々はやっぱり可愛いし、立派に育って高く買い取ってもらうんだぞと親心のような気持ちが芽生えていく。

 

 

山の仕事は大変だ。

斜陽産業と呼ばれて久しく、時間と手間がかかる割にお金を生み出すような事業ではない。

林業では働こうという若者は姿を消し、都会に稼ぎに出て行ってしまうために高齢化が進み、人手が足りなくて山の管理が行き届かなくなってしまうのだ。

人の手を入れず、自然のなすがままに森を返すという手段もあるだろうが、人の手で植えられた木々は人の手で世話をしなければ綺麗に育たない。

綺麗に育った木が、山全体の環境を良くしてくれるのだ。荒れ放題の山は花粉の被害も大きい。

 

山師たちは、お金のためだけでなく、山で生きるために仕事をする。

そんな神去村の人々の生き方を勇気は共感し、林業について誇りとやりがいを感じていく。

 

平野勇気、ゆかいな村人と暮らす

勇気を取り巻く人々はとてもユニークで飾らない人たちだ。

神去村は山の谷あいにある小さな村で、住んでいるのはほとんどがおじいちゃんおばあちゃん。

勇気の住む神去地区には、未成年が勇気の他に勇気の雇い主で中村林業の社長である清一さんの息子で5歳の山太しかいない。

勇気の下宿先には飯田ヨキという、ほとんどチンピラにしか見えないような野生児がいるし、その妻のみきさんは浮気性のヨキにいつも怒っていて、おばあちゃんはそんな二人を尻目にしてのほほんとお茶を飲んでいる。

神去村の人々は概ね勇気に好意的で、あれやこれやと世話を焼いてくれるが、もちろんよそ者扱いで意地悪な人もいる。

村人みんなが顔見知りで、そのつながりは濃厚だ。

人と人との関係が希薄な都会育ちの勇気にとっては、全く新しい環境で築く新しい人間関係。

 

そんな中でも勇気が笑って生活していけられるのは、ひとえに神去村に息づく「なあなあ」の精神のおかげだ。

 

「なあなあ」を言葉にするのは難しいが、気張らずがんばれ、とかなんとかなる、とかそういう意味。

挨拶としても、相槌としてもよく使われる便利な言葉で、何か言われたら「なあなあ」と応えておけばなんとかなるという空気さえある。

村人たちはみんな、色々と難しいことを考えて他人に当たったり、先のことを考えて憂鬱になることはない。

自然と共に生きている人々にとっては、勇気が思う以上に死と生を身近にしているからだ。

山仕事で怪我や時には死んでしまうことだってあるし、悪天候が続けば作物だって実らない。冬は雪で覆われてしまうし、病院に行くにも一苦労な土地なのだ。

みんな今の生活のために生きていて、だからこそいつ死んでしまったとしても、それはどうしようもない、「なあなあ」の出来事として受け入れている。

むしろ「なあなあ」で済んでもいいように、毎日一生懸命生きているとも感じる。

生きても死んでも、それはそれでしょうがない。なるようにしかならない。

それは時に厳しい現実を突き付けることもあるけれど、つらい現実を受け入れて生きていこうとする、神去の人々のしなやかな精神は、都会で漠然と日々を過ごしてきた勇気にとってとても心地よいものだった。

 

ヨキはちゃらんぽらんで女癖が悪いけど、根は良いやつで勇気が落ち込んでいると励ましてくれるし、みきさんはいつも元気で家を赤るくしてくれるし、おばあちゃんは勇気のことも本当の孫のように可愛がってくれる。

清一さんはしっかり者のリーダーで、巌さんも三郎さんも、山師として何十年も人生を積んでいるだけあって頼りになる。山太は素直でかわいいし。

直樹さんはツンとしてて全く勇気に興味が無いけれど、それでもめげない勇気に少しずつ心を開いてくれている。

のんびりしているけど時に豪快で、振り回されることも多いけど、それが楽しかったりするのだ。

 

彼らがなあなあの精神で壁を作らず勇気を受け入れてくれたから、勇気も神去村のことが大好きになったのだ。

 

平野勇気、神去村で生きる

はじめこそ勇気は肉体的にも精神的もしんどい労働の中で何度も実家へ逃げようとするが、次第に神去山の神々しさや四季の移ろい、おだやかで明るい人々、そして何より自分が手を掛けて育てた木々の成長に心を動かされていく。

 

春には見たことも無いほど大輪の花を咲かす桜の大木。

夏は燃えるような暑さの中、驚くほど生き生きと輝きだす青葉。

秋には村をあげての不思議な祭りがある。

そしてすべてが静まり返る冬は、気になるあの人と少しだけ近づくことができた。

山奥の星も沈みそうな大自然のなか、勇気は一年を通して神去村で生きていくことに正面から向かい合っていく。

 

神去村の、中村林業の人々はみんな山を愛しているし、山師を天職だと思っている。

そんな人たちのようになりたいと、勇気は思い始めているのだ。

 

 

 

何もない村だけど、何でもあったあの頃より、生きているという感じがする。 

時に命の危機を感じたり、理解不能なこともあるけど、生きていくとはどういうことか、勇気は体当たりで感じ取っていく。

 

まだ勇気の生活は始まったばかり。

これから村を去る時が来るかもしれないし、このまま生涯山師としてここで生きていくのかもしれない。誰にも分からないのだから、考えるより産むがやすしだ。

人生はなあなあである。

 

 感想

 

私なんか田舎生まれ・田舎育ちの農家の娘なので、家の周りの用水路に蛍が居たりとか、家なんかカギも掛けずに放置したり、あるよねー!がたくさんあって面白かったのもあるんですけど、物語の中のメインテーマである『林業』については全く知りませんでした。

木を切って植えて、刈って、それをたった数人で回しているというんだから、すごい。

同級生や身の回りのひとで林業やっている人なんていなかったな。

それが現実で、たぶんこれからも劇的に変わることはないんでしょう。

そんな中でも山師という立派な仕事があり、それに命や誇りをかけて取り組んでいる人がいる。

職業本としてもとても読み応えのある本だと思います。

 

しをんさんの描く、神去村の自然の描写もとても好き。

夏の生命力や、冬の無常さ。ひぐらしの雨や、凍えるような川の水。

あまりにも雄大すぎて、ちょっと道を逸れてしまえば、すぐに取り込まれてしまう。

自然を目の前にすると人間のなんてちっぽけなことでしょう。

 

また、神去村には本当に神様が住まうという描写もされていて、八百万の神々が地上を歩いていた時代から脈々と受け継がれる信仰は興味深いです。

 

ちなみに神去山におわす神様はオオヤマヅミとのこと。

これは古事記にも出ている山の神様で、イワナガヒメとコノハナサクヤビメのお父さんです。

かつて天界から地上へと降臨したニニギノミコトが地上の神を娶るとき、美しいコノハナサクヤビメだけを妻とし、醜いイワナガヒメを追い返したことで永遠の命を失ったという神話があります。

これにより天皇家は人間と同じく有限の時を歩むようになったとか。

 

この二人のお姫様は作中にも登場するので、なんとなくファンタジーな感じにもなります。神隠しのエピソードがあったり、山おろしとかね。

 

続編の「夜話」には神去村の成り立ちについても書かれていて、これって実際にモデルとなった村のお話なんでしょうかね? 

 私が知らないだけで、本当に民話としてあるのかな。

民俗学に興味あればもっと楽しめるかも。

 

勇気は今どきの若者だけど、まあ真面目だし根性もあって、育ちの良さを感じます。

独身の若い女性がいない村で、唯一同年代の美女・直樹さんに一目ぼれしてからは、本人にフラれても、周囲にからかわれても、彼女への一途な思いを隠そうとはしません。

当たって砕けろを地でいっていて、彼女を好きなあまり傷つけてしまうこともあるけど、とにかく好きっていうことが伝わってきます。

そんな勇気に、長いこと報われない片思いをしていた直樹もまんざらではなさそうだし、二人がくっつくのも時間の問題の気がする。。。

 

あ~二人がくっつく話も読みたいな!続編とは言わないから短編でも発表してほしい。

 

肩の力を抜きつつ楽しみたい人におすすめです。

 

 

 

↓映画はまた違った感じに仕上がってますが、面白さには変わりませんので機会があれば見てみてください。伊藤英明がまんまヨキ!

 

 

 

 

 

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